はじめに
ブロックチェーン関連の技術を眺めてみるとLayer2やZK、モジュラーといった概念は、個別に理解しようとすると唐突に見える。
個別に背景を理解しても、全体の流れや各技術の立ち位置が理解しづらい。
それに対して、この記事では過去に直面してきた技術的課題の文脈に置くことで、その立ち位置がはっきりさせようと思う。
だからこの記事では現在語られている技術がどのような意図のもとに現れてきたのかを理解するために、ブロックチェーン登場以降の技術革新の流れを歴史的に整理してみようと思う。
こうすることでIBCやZK-Rollupのように、用語としては理解できるが立ち位置が掴みにくい技術について、その背景となった課題と併せて把握することで、各技術がどのような役割を担っているのかを理解できるようにしたいと思う。
一方で技術の背景と概要理解が主な目的であるため、技術の網羅や詳細な仕組みの解説はやめようと思う。
また、流れを理解するためにある程度恣意的な流れのまとめをしている。
そこはご了承いただきたい。
ということで、ブロックチェーンが生まれた2012年からの技術革新の流れを追っていこうと思う。
1. 管理者なしで改ざん耐性のある台帳は作れるのか?(2012–2014)
最初の問いは極めて単純だったように思う。
中央の管理者や信頼できる第三者に依存せずに、改ざん耐性のある台帳を維持できるのか、という点である。
PoWとブロックチェーン構造によって二重支払いを防ぎ、参加者の合意によって台帳を更新する仕組みが成立したことで、「信頼を前提としない価値移転」が技術的に実証された。
一方で、この段階では速度やコスト、使いやすさといった要素はほぼ犠牲にされていた。
全ノードが全履歴を検証する設計は、安全性を担保するための極端な選択であったと言えると思う。
また、汎用的なアプリケーション基盤として利用することは想定されていなかったと思われる。
2. ブロックチェーンは送金以外に使えるのか?(2015–2017)
次に浮上した解決されようとした問いはブロックチェーンが送金以外の用途に耐えうるのか?という点だった。
この問いに対する代表的な解がスマートコントラクトを備えたEthereumだと思う。
スマートコントラクトによって条件付き取引や複雑なロジックがブロックチェーン上で表現できるようになった。
これによってブロックチェーンは単なる台帳から分散的に実行される計算環境へと拡張された。
しかし、この拡張は後の副作用を伴ったのだと思う。
ブロックチェーンにあまりに様々なものが載せられるのではないかという希望をより加速させたように見える。
これは全ノードがすべてのコントラクトの実行を追体験する設計は処理能力の限界を急速に露呈させたことだろう。
取引が増えるほど、混雑と手数料高騰が避けられなくなったという事態が起こった。
3. 全部オンチェーンは無理だった:速度とコストの限界(2018–2020)
スマートコントラクトの登場以後、ブロックチェーンのボトルネックは理論上の議論からより現実の地に足ついた問題に移り変わったように思う。
ここで明確になったのは性能不足。つまり、遅い、コストが高いということである。
特に設計前提の限界を試すような試みが多くなされたように思う。
この時期には、高速性を優先するチェーンや、設計思想の異なる多数のプロジェクトが現れたが、分散性や安全性とのトレードオフが常につきまとっていた。
結果として、すべてのノードがすべての計算を検証するという設計は、安全性の面では有効だったが、スケーラビリティの観点では現実的ではなかったことがはっきりしたように思う。
4. 分業という解決策:Layer2とZKによる割り切り(2020–2022)
次に取られたアプローチは、ブロックチェーンのレイヤー化である。計算そのものを一つのブロックチェーン上で行うのではなく、レイヤーをL1, L2の2つ分けて、L2でまとめて処理し、その結果だけをL1が検証するという発想が定着した。
ZK-Rollupはこの流れを象徴する技術である。なぜならばレイヤーを分けたときにどのようにレイヤーをつなぐのか?という問題を解決したからだ。
計算過程をすべて再現する代わりに、計算が正しく行われたことを数学的に証明し、L1はその証明だけを確認する。これにより安全性を損なうことなく、処理性能を大幅に引き上げることが可能になった。
この時点でブロックチェーンは、「すべてを自分で処理するシステム」から複数のチェーンにより「正しさを保証する」という形式に構造を変え始めたように思う。
5. 分断された世界:マルチチェーン化と相互接続の課題(2021–2023)
レイヤー化ともに並行して生まれていた問題として、複数のチェーンが乱立があった。
用途や設計思想ごとにチェーンが分化することで、資産や状態が孤立し、相互運用性が低下した。
例えば同じコインが複数のチェーン上で発行されたが、資産を一つのチェーンにまとめることができない問題が起こる。
この問題に対して提案されたのが、IBCに代表されるチェーン間通信プロトコルである。
各チェーンが互いの状態を検証可能な形で参照し合い、信頼を最小化したままメッセージや資産を移動できる仕組みが整備された。
相互接続は、分業の副作用として生じた新たな前提条件であり、マルチチェーン環境を成立させるための基盤となった。
6. すべてを一つにまとめない:モジュラー・ブロックチェーンという整理(2023–2025)
ここまでの流れを踏まえると、近年語られるモジュラー・ブロックチェーンは、特定のプロジェクトの発明というより、必然的な整理として現れた概念に見える。
実行、合意、データ可用性、検証といった機能を分離し、それぞれを専門化したレイヤーに委ねることで、全体としての柔軟性と拡張性を高める設計が議論されている。
この文脈においてZK証明は、単なるスケーリング技術ではなく、異なるモジュール間で「正しさ」を受け渡すための共通インターフェースとして位置づけられつつある。
おわりに
ブロックチェーンの技術革新は最初の分散台帳というコンセプトから現実劇な問題を解決しつつある、実用的なレベルに押し上げられつつあるように思う。
すべてをオンチェーンで処理するという初期の理想は放棄されて、分業と検証によってパフォーマンスと安全性を保つ設計へと移行してきている。
結果として、ブロックチェーンは単一の完成品ではなく、用途に応じて組み合わせられるインフラ部品として再定義されている。
うーん、面白い。